監督の仕事論から、チームマネジメントについて考える

ひとりひとりが力を発揮できる
ワンチームとして輝く環境づくり

対談

プラス株式会社 代表取締役社長 今泉 忠久(写真左)

公益財団法人日本サッカー協会 プロサッカー監督 森保 一氏(写真右)

サッカー日本代表のチームを躍進させてきた森保一監督。強いチームを作り出し
た非カリスマ型マネジメントは、トップダウン経営からボトムアップ経営へと変
化する企業経営においても注目されています。今回は、森保一監督に仕事論につ
いて伺いました。

写真:公益財団法人日本サッカー協会 プロサッカー監督 森保 一氏
写​真:​森​保 ​一​氏

Guest Speaker:
森保 一|Hajime Moriyasu
1968年8月23日生。プロサッカー監督。元サッカー日本代表選手。現役時代のポジションはMF。監督としてはサンフレッチェ広島でリーグ優勝3度、東京オリンピック4位、FIFAワールドカップ カタール2022でベスト16という実績を残す。2026年大会の続投が決まり、現在に至る。

チームの一員として役割を担う、
「監督」ではなく「監督係」

今泉

今回はお忙しい中、対談を快諾いただきありがとうございます。社員皆で楽しみにしていました。

森保

こちらこそ、お声掛けいただきありがとうございます。以前、遠征先のドイツで偶然再会した時は驚きましたが、こうして改めてお話しする機会をいただき大変嬉しく思います。

今泉

今回、私が森保監督と対談させていただきたいと思ったのは、ドイツでの会話の中で「私は監督ではなくて監督係です」と発言されたことです。あの時、社長に就任したタイミングでして、どのような社長像を創り上げていくべきか模索していた私にとって、「自分は組織の社長係として役割を担っているだけだ」と腹落ちした記憶があります。まさに、企業経営もそうあるべきだと思っていたので。改めて「監督係」という意味、その考えに至った経緯をお伺いできますでしょうか。

森保

そう言っていただいて光栄です。現在は監督の役割を担っていますが、過去には選手経験やコーチ経験もあります。皆で同じ目標に向かっている時には、監督も選手もコーチも同じだという思いがあります。もちろん監督は決断係や責任取り係でもあって、それぞれに役割は異なりますが、皆でチームをつくる、皆で頑張る、皆で同じ目標に向かう、自分もチームの一員だという思いがあります。ですから、チームの中で鞄持ちが必要だと言われればやりますし、常に「できることであればなんでもやります」というスタンスでいます。

今泉

森保監督の著書の中で選手を羊に例えて、自分は「羊飼いではなく牧羊犬」とも仰っていました。同じ目標に向かって進む選手たちを後ろから追い立て、モチベートしながら誘導する係だと。「監督係」であり「牧羊犬」、そのお考えは今も変わっていないのでしょうか。

写​真:​森​保 ​一​氏​

Guest Speaker:
森保 一|Hajime Moriyasu
1968年8月23日生。プロサッカー監督。元サッカー日本代表選手。現役時代のポジションはMF。監督としてはサンフレッチェ広島でリーグ優勝3度、東京オリンピック4位、FIFAワールドカップカタール2022でベスト16という実績を残す。2026年大会の続投が決まり、現在に至る。

森保

変わらないですね。監督の役割は目標設定や指針の共有ですが、基本的には皆が主体的に一つの目標に向かう時に、一糸乱れぬ進み方ではなく、異なる価値観を認め合い、許容範囲を保ちながらも自分の個性や特長を発揮して同じ方向に向かっていこうよ、と。輪から外れそうな人がいたら牧羊犬のように吠えて、「ちょっと戻って」と言う役割だと思っています。人にやらされている、この列に絶対入らないといけない、といった窮屈な思いはしてもらいたくないですから。

今泉

確かに、日本代表となるとそれぞれに能力が高い分、個性的で主張の強い選手も多そうですよね。

森保

はい、みんな、「俺が一番」の人たちですから(笑)。

やりがいや責任感をもって、
選手や社員がどれだけ輝けるか

今泉

「監督係」や「牧羊犬」といった考え方について、経営視点からもう少しお伺いしたいです。というのも、今、企業経営では「人的資本経営」が潮流でして、会社にとっては社員の頑張り、社員そのものが重要だとされています。昔は「Human Resource」—会社の資源として、社員をどこに配置してどう使うかという経営側の視点でしたが、今は「Human Capital」—社員は会社の資本と言っています。社員をどう輝かせるか、どう磨くかが経営者の仕事であると、完全に発想が逆転しました。まさに、森保監督が提唱されてきた考え方と同じだなと。トップダウンではなくボトムアップ、カリスマ経営ではなく脱カリスマ経営。現場がどれだけ輝けるか、その為に経営者は一歩下がって支援をする。ビジネス用語で言えば「サーバントリーダーシップ」でしょうか。

森保

なるほど、ビジネス用語では「サーバントリーダーシップ」と言うのですね。

今泉

経営者は部下に対して「皆さん頑張ってください。私は後ろでサポートしますから」と奉仕の精神で接する、今はそういったリーダーが求められているので、森保監督の話に深く共鳴いたしました。

森保

ありがとうございます。仕事論について講演すると、「ボトムアップ的」とよく言われますが、組織のトップとしては両輪であるべきだと考えています。決めたことはやってもらう。組織のスタッフと話し合いをしても皆が同じ考えを持つわけではないので、最終的にはトップが決断する、トップダウンの視点を持っておかないといけないと思っています。

今泉

ボトムアップとトップダウンの両輪ですね。著書の中では、監督の仕事はチームのコンセプトを決めて、目標や目的をチームやスタッフに共有することだとも仰っていました。とはいえ個性豊かな選手に伝えるのは難しいと感じます。価値観も違えば、能力も背景も異なる人たちに、どのように理解させながら自分のサッカーをしてもらうのか。森保監督がこの矛盾をどう整理し、納得感を持たれているのか大変興味があります。

写​真:​今泉​ 忠久氏
森保

納得感でいうと、選手やスタッフがやりがいや責任感を持って、試合などで生き生きとしてほしいという思いがあります。言われてやるのではなく、各々が自分で考え、個性を発揮しながらチームを勝利に導くような考え方や環境づくりを目指しています。とはいえ、自分が一番と思っている選手ばかりなので個性を活かしきれているかは分かりませんが、チームの規律の中においてもなるべく個性を発揮できるようにと心掛けています。

今泉

世界中から強者ばかり、「俺が一番」が集まっていますからね(笑)。

写​真:​今泉​ 忠久氏

自分の役割を果たすことが
チーム全体のためになる

森保

選手たちには、「自分のために」と「チームのために、仲間のために、日本のために」という両方の視点を持ってほしいと伝えています。自分のためには8割で、残り2割はチームのため、仲間を活かすために自己犠牲を厭わないこと、「チームと自分」の両輪を持つようにと。ただ、FIFAワールドカップ2026に向かう若い選手たちは2020年東京オリンピック時代から10年近く見ていますが、最初の頃は「チームのために」とは一切言わなかったですね。

今泉

そうなんですか。

森保

当時は、とにかく自分の力を発揮することだけを考えてくれと言っていました。

今泉

自分の力を発揮することだけを考えろ、とは意外ですね。

森保

ただ、それぞれの選手に担って欲しい役割は伝えていて、「自分の役割をしっかりやってくれ」と言っていました。それをつなぎ合わせるのは監督やコーチの仕事であって、選手一人一人が役割を果たせば、その結果、チームとして機能します。選手も、自分の力を発揮するには自分だけではだめで、ゴールを決めるにはパスをくれる人がいて、自分がボールを奪うことができるのは相手に制限をかけてくれる何人もの仲間がいるから、まわりがあってこそ自分が輝けるということに少しずつ気づいてくれました。今では「自分のために、チームのために、仲間のために、日本のために戦える人がここにいる、両輪を持てない人はここにはいらない」とストレートに伝えています。

写真:森保 一氏の​ノートと​ペン
今泉

自分のためだけでなく、チームや仲間、そして日本のために…、感動して鳥肌がたちました。我々は日本を意識しながら働いているだろうか。

森保

皆さんも日本のために働いているじゃないですか。我々は組織でいうとJFA(公益財団法人日本サッカー協会)で、代表チームとして表で戦っているのは我々ですが、総務の方や人事、財務、広報、運営の方々、それぞれが自分の仕事を一生懸命やってくれているからこそ思い切って戦える環境がある。組織全体で一つのチームだと思っています。
プラスの皆さんも人々の生活を豊かにすることを仕事とし、ものづくりをされていると思います。それこそが日本のため、社会のためになっていますよね。私も講演会などで異業種の方と会う機会がありますが、一生懸命働いている方々は日本のために頑張る仲間だと思っています。

今泉

ありがとうございます。そのように言っていただけると、日本のために共闘しているのだなと感じます。私たちも日本代表の応援を通してワンチームになれることはすごく嬉しいです。

森保

皆さんに応援していただきたいですし、我々も皆さんを応援したい。できれば日本人一人一人と握手をして、業種の壁を越えて日本人の気持ちや誇りを共有したいです。我々は世界のチームと戦っていますが、皆さんもグローバルな事業展開によって世界と戦っていると思いますので、「一緒に挑んでいきましょう」という気持ちです。

今泉

そうですね。我々はビジネスで、一緒に世界に挑んでいきます。

森保

ワールドカップは世界中から国の代表が集う世界最大級の祭典です。そこで勝つことは、日本人の価値を高め、日本人が日本に誇りを持てることにつながると思っています。そういった意味でも、絶対に勝ちたいという気持ちが強いですね。

写真:森保 一氏の​ノートと​ペン
写​真:​森​保 ​一​氏​

現場に役割を託すことで
チームに広く深く伝えることができる

今泉

史上最強と言われる今の日本代表をつくられた森保監督ですが、マネジメント方法も含めて、サンフレッチェ広島での監督時代から変遷があると理解しています。広島の監督時代、それから日本代表の第一期まではヘッドコーチ型として、日本代表の第二期からマネジメント型に移行したと記事で拝見しました。なぜヘッドコーチ型からマネジメント型に移行したのか、それは盤石な組織づくりのために変えられたのか、その経緯をお伺いしたいです。

森保

そうですね。自分でも変化していった感覚はあります。広島時代も日本代表でも、当時は監督として現場では先頭に立つ方がいろんなことが伝わると思っていました。ミーティングでもピッチ上のトレーニングであっても、先頭に立って戦略や戦術を選手に落とし込むことが監督の責務と思っていましたし、現場で姿勢と態度を示すことで選手やスタッフに浸透していくと思っていました。

今泉

けれどマネジメント型に変えたということですね。

森保

はい。例えば、日本代表の場合、選手を招集して数日後には試合を行い、約10日間で2試合行われます。この短期間の中で対戦相手との戦いを戦術に落とし込み、チームや選手とミーティングや練習を行い、広報や事務方、トレーナー、さらには個々の選手とコミュニケーションを図っていると基本的な発言ばかりで、「なんか内容が薄いな」と感じたんですよね。とはいえ勝ち進んでいけば対戦相手のレベルも上がります。そうなった時に、私が基本的なことを伝えるよりも、チーム戦術や考え方をコーチ陣と共有し、伝える役割をコーチ陣に託すことでチーム全体に伝わりやすくなり、皆が戦術を深く理解して個々の良さの発揮につながると思いました。選手にも「コーチ陣が言うことは監督の考えていることと同じ」だと、コーチがいる前で伝えていました。

今泉

そうなのですね。トップの考えを正しく発信できる人がどれだけいるのか、それは会社経営においても重要です。とはいえ、中間管理職にビジョンや戦略を共有し、権限委譲していくのはなかなかハードルが高いとも感じています。森保監督はコーチ陣に対してどのように自分の考えを浸透させているのか、コミュニケーションに工夫があるのかお聞きしたいです。

森保

そうですね。まず、「なんのためにやっているのか」目的を共有します。「チームのために」は大前提として、我々がやっていることは何なのか、選手を輝かせなければいけないし、そうすることでチーム力が高まり勝利につながることを共有します。また、スタッフと世界のサッカーを観ながら自分たちのサッカーと比較し、「成果と課題」も話し合います。「あのチームはこうだった」「コレを取り入れよう」という話も雑談ベースでやっていると思いますね。

今泉

なるほど、「成果と課題」、そして「なんのためにやっているのか」の共有ですね。

森保

コーチ陣は、監督と違う考えを選手に発言しないようにと良い意味で遠慮してくれることもありますが、積極的に発言してほしいとお願いしています。選手から「監督とコーチが言っている事が違う」と言われても「伝え方が違うだけで考えは共有している」と伝えます。コーチ陣が選手に伝える際に疑問に思うことがあれば相談してもらうなど、事前報告ではないですがやりとりはしていますね。

今泉

世の中にはいろんな組織がありますが、一般企業でもトップダウン経営のやり方は時代とともに古くなっています。森保監督が監督係に徹することで、コーチ陣はコーチ係として、「日本のために」「チームのために」という意識を持ちながら、フラットでオープンな組織ができていると思いました。「監督係」と簡単に仰っていますが、実は組織全体に波及する素晴らしいコンセプトだなと改めて感じています。

写​真:​今泉​ 忠久氏

モチベーションの根幹は変わらない。
納得感が生まれる環境づくりを

今泉

最後に一つ。社内で、働きがいや組織への信頼、理念への共感などについての調査を行うと、「モチベーションが維持できない」「部署異動してモチベーションが下がった」などの声が若い人から聞かれ、経営者側としては社員のモチベーションという言葉を意識せざるを得ません。著書の中で「モチベーションは自分であげるもの」と言われていますが、そのお考えをお聞かせください。

森保

今の若い人は生まれた時代背景も考え方も違うので、これまでと同じアプローチでは難しいとは思いますが、根幹は変わらないと思っています。私はどちらかといえば、自分が知らないことを若い人に教えてもらいながら最適なものをフィードバックできるように、と考えています。我々でいえば、選手のモチベーションは試合に選出されるか否かなので、「何を期待して選出したのか」「求める戦術の中でできていること、できていないこと」など選手たちには丁寧に説明し、納得感を持ってもらいます。

今泉

それはコーチからではなく、森保監督から直接話されるのですか。

写​真:​森​保 ​一​氏​
森保

そうですね。先ほどお話したように役割を逆転させたんです。戦術を伝えるのはコーチ陣に任せて、選考を伝えるなどの調整役は私がしたほうがいいかなと。最終判断は私ですし、選手とも究極のコミュニケーションが取れるので正解だったと思います。また、公式戦でレギュラー組とサブ組に別れる時は序列まで選手に伝えますね。ただ、「これは今の序列であって未来はわからないし、自分次第」とも。相手によってソフトに言うか厳しく言うかはありますが、成果と課題のフィードバックと序列のフィードバックはきちんと選手に伝えます。

今泉

丁寧なコミュニケーションや本人の納得感は、モチベーション維持にとって大切ですね。

森保

はい。特にプロスポーツは競争世界なので、ルールや条件、役割は事前にはっきりと伝えます。スポーツ選手と会社員では立場が異なると思いますが、今の時代は契約社会なのでビジネス社会でも事前に会社のビジョンや諸条件は明確に伝えるべきだと思います。
日本は察する文化でもあるので、あまり言葉ではっきりと伝えないですよね。その点、欧米は契約段階で明示しますし、日本が倣うべき部分だと思います。それは私も意識していて「こうなるかもしれない」「途中から使うかもしれない」など、許容範囲を持ちながらも事前に伝え、選手が納得いくように気をつけています。

今泉

なるほど。そうすると契約に書かれていることが実行されない場合は、モチベーションというよりも契約違反ということですね。

森保

そうです。例えば、部署異動についても事前に説明していれば、あとは本人次第ですよね。我々はそこに関しては厳しいです。個性を尊重し、人を大切にはしたいですが、まずは「チームのために」なので、ルールに従えないとなれば他の選手と入れ替えます。

今泉

そこは会社とは違うかもしれないですね。我々にはスタメンという概念はなくて、みんながスタメンであり配置換えすることで輝ける機会は山ほどあると思っているので、そこをどうローテーションしていくかを常に考えています。

写​真:​森​保 ​一​氏​

チームはジグゾーパズル。
異なるピースで
できているから面白い

今泉

勝負の世界では自分のプロフェッショナリズムを発揮したい人が世界中から集まる中で、同じ目標に向かってチームのために、とはいえ個性も存分に発揮してほしい。この相反する考えをマネジメントするのは大変なことだと思います。

森保

仰る通りです。でも、チームってジグソーパズルだと思っていて、いろいろなピース、多種多様な人がいて、つながりあうことで一つの絵、チームになると思っています。すぐにはかみ合わなくても、自己主張の強い選手たちが、自分たちでその原因を話し合って課題を解決し、自然とかみ合ってくるところがすごく面白いというか、大好きですね。皆が合わせようと丸くなるのではなく、個々がトゲトゲしくいながらピースとしてはまっていくのが理想でもあります。なかなか難しいですけれど(笑)。

今泉

個性的なピースがピタッと組み合うことで、チームの魅力が高まる。会社も一つのチームとして、そうありたいと思いました。今日はお忙しい中、素晴らしい時間をありがとうございました。これからの試合に向けて万全のチームで挑んで頂きたいですし、我々も応援しています。

森保

皆さんの共闘の思いが選手たちの力にもなるので、ぜひ応援をよろしくお願いします。

写​真:​森​保 ​一氏、​今泉​ 忠久氏